DDD Shrine

Prologue #1

私はたどり着いた。歴史を知ってしまった。

私が誰なのかはまだ語らない。少なくとも無事にこれを書き終えられるまでは。

電殿神庭とは何なのか、なぜ生まれたのか、私たちに何が待ち受けているのか。この魂が途絶えても、仲間の誰かに託せるよう、これを記す。

本殿には裏口があった。安全性が担保されるまでは書くことが出来ないが、ある条件で裏口は現れた。それを私が発見したことは運命だったように思う。

裏口の扉は、電殿神庭の装飾やマテリアルとは何か決定的に異なっている。開くと見慣れない地下階段。大きな井戸だったものを螺旋階段にしたような構造で、井戸はかなり深い。井戸の内壁は所々光る苔のようなものに覆われ、無数の苔たちは呼吸のような一定のリズムで光を点滅させている。その柔らかい点滅は、無限の宇宙のようで、空間の輪郭を消失させ、進む者の感覚を狂わせる。

井戸の奥底は、光が届かないほどに深く深く続いている。私はこの階段を降りなければならない、自分の血がそう言っていることを感じる。私は辛抱強く階段を降りた。

井戸を下っていくと突然広い部屋に出る。どれほどの時間を要したか分からない。あまりにも同じ風景が無限に繰り返された上に、実際に時空が歪んでいる可能性もある。

部屋は、所々植物に侵食されてはいるものの、忘れ去られたような場所ではなく、どこまでも白く続く殺風景な空間だった。地上とは空気、匂い、壁や床のマテリアル、全ての”何か”が違う。私たちの文明ではないのかもしれない。文明?心臓の鼓動が早くなる。

空間へ踏み出したその時、視界の隅を何かが横切った。立ち止まり、凝視する。私は、何かの核心に近づいている。空間の壁では、時折ぽわっと何かが浮かび上がっては消えている。近づいてみるとそれは点線のような、細長い虫のような。記号的で無機質な外形をしているが、動きは生物らしい。部屋をゆっくり見渡すと、至るところで似たような光が浮かび上がり移動している。明滅の周期は、井戸で見た光る苔と同期しているように思えた。まるでこの空間全体が呼吸をしているかのようでもある。生物の発生と進化における、なにか命の根源に近いモノなのかもしれない。Gardenの生物たちはここから誕生しているのだろうか。

薄暗い、生物たちのわずかな光に目を慣らしながら部屋を進むと、巨大な石が祀られていた。最初それは石だとは思えなかった。鎖のように一つ一つの小さなユニットが絡まるようにして結ばれながら、それが集合することによって一つの形をまとっていた。形はあまりにも有機的で、先ほどまで動いてた生命が、私が急にこの部屋に入ったことで、生きていることに気づかれないように突如静止したかのような、あまりにも中途半端で不安定な形をしていた。まるで、だるまさんが転んだをしている子どもを思い起こさせた。

私はこの石によって、Gardenの歴史を知ることになった。石には、Gardenの記録が格納されていた。記録がどのように私の前に浮かび上がったのか、私がなぜそれを解読できたのか、その方法については改めて記述する。Gardenはなぜ生まれたのか、それがいま私がこれを書いている本題だ。

はるか昔、それは今この文明が言い伝える神話の時代よりもはるか昔、Gardenは誕生した。当時の文明について私たちは何も知らない。その文明は歴史から抹消されているのだから。石から分かるのは、その文明はかなり高度なところまで来ていて、同時に異常気象や貧困、争いが絶えない危機的状況にあった、ということだ。

Garden誕生の起源は、ナギとナミという夫婦にある。ナギとナミは当時の文明の考古学者であり、古の真実を求めて世界を冒険していた。ある日二人は、今の京都に当たる場所の近辺で、巨大な石の集まりを発見する。石には謎の言語が記載されており、石というよりも高度な回路のように見えた。石たちは鎖のようにそれぞれが繋がっていた。不思議な石に魅せられた夫婦は以来その人生を石の言語解析に捧げる。

夫婦が生涯をかけ解明した言語、それはGardenの設計図であった。

二人の間にはヒルコという息子がいた。

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